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孤独と抵抗を静かに語る言葉たち――劉霞(リュウ・シア)『毒薬』

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この本が発売された2018年3月時点では著者はまだ北京で軟禁状態に置かれていたようですが、同年7月に軟禁を解かれドイツへ出国。 さらに今年7月からは日本に滞在しているそうで… 『私は外務省の傭われスパイだった』 を読んだばかりということもあって、日本も危ないんじゃ?と心配になってしまいます。 劉霞から劉暁波へ、詩集『牢屋の鼠』への返歌。 一匹の魚、一羽の鳥となった劉暁波への切なくかなわぬ恋文。 劉暁波に与え続けた同志としてのエール。 劉暁波亡きあとも生きるための薬である。 ( Amazon.com より引用) 作品情報 『毒薬』 著者:劉霞 訳・編者:劉燕子・田島安江 発行年月日:2018年3月2日 出版社:書肆侃侃房

バッタ研究にかける情熱に圧倒される――前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』

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著者が『ファーブル昆虫記』に感銘を受けて昆虫学者を目指すところまでは理解できる。 でも…「バッタに食べられたい」ってどういうこと!? バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。 それが、修羅への道とも知らずに……。『孤独なバッタが群れるとき』の著者が贈る科学冒険ノンフィクション! ( Amazon.com より引用) 作品情報 『バッタを倒しにアフリカへ』 著者:前野ウルド浩太郎 発行年月日:2017年5月20日 出版社:光文社

日本の弱腰外交を突きつける一冊――原博文『私は外務省の傭われスパイだった』(茅沢勤訳)

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タイトルからして衝撃的。 「スパイもののノンフィクション?ちょっと小説っぽくて面白そう」くらいの軽い気持ちで読み始めましたが、読み進めるうちに全然そんな軽い話ではないと息をのみました。 筆者は中国残留孤児2世で外務省の元対中国スパイ。 96年に中国国家安全省に逮捕され、懲役8年の判決を受けた。外務省は彼を見捨てた。 「日本のスパイ活動」と「中国の監獄」という数奇な実体験の書き下ろし。 ( Amazon.com より引用) 作品情報 『私は外務省の傭われスパイだった』 著者:原博文 翻訳:茅沢勤 発行年月日:2008年5月19日 出版社:小学館

コンプライアンス中毒の正体は脳にあった――中野信子『咒の脳科学』

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内容は面白かったし、自分の中の価値観を見直すきっかけにもなったのだけど。 正直なところ、咒とはあまり関係なかったような…? なぜ、私たちは、周りの言葉にこんなに苦しんだりするのでしょう? 人を息苦しくさせる――SNSにあふれる呪いの言葉、病気にもしてしまう暗示。刷り込まれる負けグセ。 脳を中毒にする――イケニエを裁く快楽、罰を見たい本能や正義という快感。ウソつきの遺伝子がモテる。 知りたくなかった現実――男のほうが見た目で出世、女はここまで見た目で損をする。脳に備わっていたルッキズム。 私たち人間の社会は咒(まじない)でできていると言って過言ではないのです。 なぜなら言葉が、意識的と無意識的とにかかわらず人間の行動パターンを大きく変えてしまう力があるから。 人間関係や仕事、人生の幸不幸も、あなたを取り巻く社会の空気さえ。 そして今SNSがひとりひとりを孤立させ、言葉はいっそう先鋭化しています。 正義や快楽に中毒する脳そのものが、そもそも人間社会を息苦しくする装置です。 本書の役割は、脳にかけられた咒がどのようなものかを知らせ、解放することにあります。 ( Amazon.com より引用) 作品情報 『咒の脳科学』 著者:中野信子 発行年月日:2025年3月4日 出版社:講談社

やっと分かった、「サラダ記念日」が刺さらなかった理由――俵万智『サラダ記念日』

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7月6日にアップしたかったけど間に合わなかった…。 〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日〉――日常の何げない一瞬を、新鮮な感覚と溢れる感性で綴った短歌集。生きることがうたうこと。従来の短歌のイメージを見事に一変させた傑作! ( Amazon.com より引用) 作品情報 『サラダ記念日』 著者:俵万智 発行年月日:1989年10月4日 出版社:河出書房新社

実家じまいに悩む全ての人へ――高殿円『私の実家が売れません!』

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ダンナの両親に読ませたい~~! 郊外築75年、大量のガラクタ、恐怖の再建築不可物件……。 残された実家は超問題だらけ!! 笑いと涙、前代未聞の実家じまい本! 維持費に相続手続き、片付けに親族問題、税金対策に売却まで、いま話題の”実家じまい”問題にドラマ&漫画化多数の人気作家・高殿円氏が挑み、リアルな実体験を綴ります。 親戚トラブルの回避、税金に相続問題、長年放置している家財の片づけ方、不動産仲介業者に断られた物件を意外な場所で売る方法まで……。 不動産の専門家による解説を収録し、楽しく読めながら自然と実践的な知識も身に付きます。 笑えて泣けて、知識もつく、超お得な1冊!”実家じまい”のお悩みを全解決する、ページをめくる手が止まらなくなる新感覚の人情派「実家じまい」エッセイです。 ( Amazon.com より引用) 作品情報 『私の実家が売れません!』 著者:高殿円 発行年月日:2024年7月19日 出版社:エクスナレッジ

教養ある悪口のすすめ――堀元見『教養悪口本』

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悪口繋がりで読んでみたら、この本にも中原中也の「青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって」が出てきて笑った。 (関連記事: 天才たちのレスバ合戦が面白すぎた――彩図社文芸部編『文豪たちの悪口本』 ) インターネットに氾濫する悪口がつまらないのは、そこに知性もユーモアも宿っていないからだ。「こいつ無能。死ね」というツイートを見て、楽しい気分になる人はいない。「こいつ無能」と言いたくなった時は、代わりに「植物だったらゲノム解析されてる」(本書14ページ)と言おう。周囲も「えっ、何? どういうこと?」と興味を惹かれるだろうし、生命科学の発展に思いを馳せる良い機会になる。 不快さを、楽しさや知的好奇心に変えられるのが、「正しい悪口」の効能なのだ。 僕はこれを「インテリ悪口」と称して、インターネットに書き溜めてきた。<略> 皆さんが何かをバカにしたくなった時、本書を活用してほしい。僕が可能な限りの知性とユーモアを詰め込んだ「インテリ悪口」を使ってほしい。 嫌なことがあった時、インテリ悪口を使うことで、溜飲も下がるし、笑い飛ばすこともできる。ちょっとだけ勉強にもなると思う ( Amazon.com より引用) 作品情報 『教養悪口本』 著者:堀元見 発行年月日:2021年12月30日 出版社:光文社

夕方が一日でいちばんいい時間なんだ――カズオ・イシグロ『日の名残り』(土屋政雄訳)

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平凡で、真面目で、ロマンチストで…自らの執事としての「品格」を疑うことなく生きてきたスティーブンス。 きっと第二次世界大戦以前の、大英帝国がまだ栄華を誇っていた時代であれば、そのまま何の疑問も抱かずに生き抜くことができたのでしょう。 でも、戦争の終結とともに社会構造が大きく変わり、変わりゆく時代について行けず取り残されようとしている。しかもそのことに気づいた今、自分は老い始めている。 なんて恐ろしいんだろう。 品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々-過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。 ( 楽天ブックス より引用) 作品情報 『日の名残り』 著者:カズオ・イシグロ 訳者:土屋政雄 発行年月日:1990年7月77日 出版社:中央公論社

天才たちのレスバ合戦が面白すぎた――彩図社文芸部編『文豪たちの悪口本』

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今だったらXでレスバする感覚でしょうか? 好きな作家がしょうもないことでバトルする姿…。 うーん、見たいような見たくないような。 文豪と呼ばれる大作家たちは、悪口を言うとき、どんな言葉を使ったのだろうか。 そんな疑問からできたのが、本書『文豪たちの悪口本』です。 選んだ悪口は、文豪同士の喧嘩や家族へのあてつけ、世間への愚痴など。随筆、日記、手紙、友人や家族の証言から、文豪たちの人となりがわかるような文章やフレーズを選びました。これらを作家ごとに分類し、計8章にわたって紹介していきます。 川端康成に「刺す」と恨み言を残した太宰治、周囲の人に手当たりしだいからんでいた中原中也、女性をめぐって絶交した谷崎潤一郎と佐藤春夫など、文豪たちの印象的な悪口エピソードを紹介しています。 文豪たちにも人間らしい一面があるんだと感じていただけたら、うれしく思います。 ( Amazon.com より引用) 作品情報 『文豪たちの悪口本』 編者:彩図社文芸部 発行年月日:2019年6月21日 出版社:彩図社

「私は美人」と思い込む――酒井順子『私は美人』

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最初のうちは面白くてページをめくる手が止まらなかったけど、美人に関する文章ばかり続くとさすがに疲れたな。 でもまあ、それだけ「美人」というテーマはネタが尽きないということか。 女に生まれたからには、誰もが目指す「美人」という山の頂点。しかし、私たちはなぜ美人になりたいのか。そもそも美人とは何なのか。性別、年齢、地域はもちろん、一人の人間の主観と客観の間においてさえ微妙に揺れる美人観。美人を目指さずにはおれない女性たちの行動と心理に潜むその本質を、持ち前の鋭い観察眼で喝破し、ユーモアで包んで読ませる、身につまされる美人論。 ( Amazon.com より引用) 作品情報 『私は美人』 著者:酒井順子 発行年月日:2007年11月30日 出版社:朝日新聞社

棄てられない記憶――村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』

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猫好きとしては読むのを躊躇ってしまうタイトル。 村上春樹のお父さんって戦争を経験している世代なんだ… ということにまず驚いた。 時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある。ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は過去のものではない。このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた。―村上文学のあるルーツ。 ( Amazon.com より引用) 作品情報 『猫を棄てる 父親について語るとき』 著者:村上春樹 発行年月日:2020年4月25日 出版社:文藝春秋