【文庫本】阿部智里(2014)『烏に単は似合わない』文藝春秋



※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。

作品情報

著者:阿部智里
発行年月日:2014年6月10日
出版社:文藝春秋
松本清張賞を最年少で受賞、そのスケール感と異世界を綿密に組み上げる想像力で選考委員を驚かせた期待のデビュー作は、壮大な時代設定に支えられた時代ファンタジーです。人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」では、世継ぎである若宮の后選びが今まさに始まろうとしていた。朝廷での権力争いに激しくしのぎを削る四家の大貴族から差し遣わされた四人の姫君。春夏秋冬を司るかのようにそれぞれの魅力を誇る四人は、世継ぎの座を巡る陰謀から若君への恋心まで様々な思惑を胸に后の座を競い合うが、肝心の若宮が一向に現れないまま、次々と事件が起こる。侍女の失踪、謎の手紙、後宮への侵入者……。峻嶮な岩山に贅を尽くして建てられた館、馬ならぬ大烏に曳かれて車は空を飛び、四季折々の花鳥風月よりなお美しい衣裳をまとう。そんな美しく華やかな宮廷生活の水面下で若宮の来訪を妨害し、后選びの行方を不穏なものにしようと企んでいるのは果たして四人の姫君のうち誰なのか? 若宮に選ばれるのはいったい誰なのか?あふれだすイマジネーションと意外な結末――驚嘆必至の大型新人登場! (Amazon.com より引用)




感想

★☆☆☆☆
購入本

書店で表紙の絵の美しさに惹かれてシリーズ第1作目のこの本を購入して以来、八咫烏シリーズは第1部最終巻まで読んでいます。

シリーズ全体を通しての評価は★2~3くらいかな。ハマるほどではないけど、続きは気になる。表紙も綺麗だしまあ読んでおこうかなーって感じ。
それにシリーズものって、1冊買うと「全部揃えなくては!」という謎の使命感が働いたりもしませんか?笑

でもね、この『烏に単は似合わない』だけは本当に大っ嫌い!!!

「予想を裏切る。」と書かれた帯のとおり、どんでん返しものなのですが……
どんでん返しじゃなくてただの後出し、こじつけでしょ、としか思えない。
物語の終盤になって、突然探偵役が登場して推理を披露するのですが、それが何とも……


別に、主人公と思わせておいて実は黒幕だった、というトリックは構わないですよ。
むしろこの手のトリックは好きです。

でも、それには説得力が必要でしょう。
真相が明らかになったとき、そのキャラの言動を振り返ってみて「違和感の正体はコレか!」と納得できるような。

あせびに違和感を抱かせるような伏線、ありましたっけ???

作中の事件は全てあせびが周囲の人を唆したせいだそうですが……
それは無理矢理すぎませんか( ̄▽ ̄)

若宮曰くあせびは「悪意が無ければ、全てが許されるのだと知っている者」だそうですが……
本当に???
少なくとも私は、それまでの描写からそんなキャラだと読み取ることはできなかったのですが?

あせびがどうやって藤波の宮や嘉助を籠絡したのか描かれていないから、本当にあせびに彼らを操る意図があったのかどうかも分からないし。
特に藤波があせびにあれほど肩入れする理由って何?あせびの母が藤波の教育係だったからって、それだけで?
そこを明らかにしてくれないと、あせびを悪者とは思えない私。

あせび自身は自分に悪意があったことを認めていないのに、若宮はじめ他家の姫たちも皆して彼女を悪者と決めつけ糾弾し出して、とても不快でした。
周囲の人間が勝手にやったことで責められるあせびが、かわいそうで仕方なかったです。


そもそもなんですけど、あせびのしたことって、そんなに責められることですか?


若宮の文を藤波の宮が隠していたのを知りながら黙っていたことだって、私に言わせればそれの何が問題なんだと。
あせびが藤波に依頼したわけでもなし。
各姫たちは入内争いをしているわけで、他の姫たちだって同じことが起きたら黙ってたんじゃないの?
だいいち、自分宛の文のことをわざわざ他人に言う必要あるのか、甚だ疑問です。

早桃を殺したのだって藤波であって、あせびではないでしょ。
そのことで彼女が責められるのは本当に筋違いだと思うのですが!!!

若宮だってさ、浜木綿の献身に対して「(浜木綿が)自分で勝手にやったことだろう」って言ってたじゃん。


下男の嘉助を桜花宮に入れたのは確かにあせびが悪いけど、姫に狼藉を加えようとしたのは嘉助自身。
あせびが嘉助を騙したせいだと言っても、彼は登殿した主家の姫と密通しようとしたわけで。殺されたって文句言えないじゃん。
真赭の薄からもらった赤い着物だって、うこぎが片づけることなくそのまま置いておかれる可能性だって十分あると思うんですけど?
そんな不確実な要素を証拠として事件を解決って、とうてい納得できないです。


作者があせびを腹黒いキャラとして描いている以上、それが正解で、私には全て若宮の憶測としか思えない推理もこの作品の中では真実なのでしょう。
(はあ?って思うけど。)

これだけでも受け入れられないのに、最後に若宮が正室に選んだのは初恋の人って……
利益云々偉そうに語っておいて、「けっ!」てなもんです。最初から決めてたんじゃん。
だいたい、四家を蔑ろにしてでも浜木綿を桜の君にするのなら、若宮がさっさと姫たちの前に現れて浜木綿を選べば、作中の不幸な出来事は防げたんじゃないの?
たとえあせびが宗家にとって価値のある人物だったとしても、若宮は彼女を妻にはしなかったでしょ。
そう思うと、一番タチが悪いのは若宮じゃないか、と言いたくなります。


……


はぁーー!読んでいて感じたイライラを全部書いてスッキリ!
とにかくこの作品は、ろくな伏線もなく、突如だまし討ちされた感じなのが腹立つのなんのって。
書いているとムカムカしてきて、思いのほか長くなってしまいました(^^;)


あ、あとですね。
これだけあせびを擁護した感想を書けばお気づきでしょうが、私はあせびが好きです。
(単に話の展開に納得できないだけで、特に彼女を擁護しているつもりはないですが。)

とにかく美人が好きなので(可愛い系だとなお良し)、容姿の美しさはさることながら。
(『烏は主を~』の雪哉視点でも、あせびは他の姫より抜きん出て美しいようですし。^^)
コミカライズ版のあせびちゃん、本っ当に可愛い(^^)

おっとりと愛らしく、性格も穏やかで、おまけに琴の名手!圧倒的なヒロイン力!!!
これだけでも私が彼女を推す理由には十分ですが、特に、后に選ばれるのは自分だと信じて疑わない純真さがいいです。
控えめながらも自分に自信がある女性って素敵だと思うのですよ。


そして本性が明らかになった後も、私はやっぱりあせびが好きです。


百歩譲ってあせびが若宮の言う通りの人物だとして……
それってつまり、彼女は自分の魅力をちゃんと理解していて、それを武器に周囲の人間を思い通りに動かすことができる、ってことでしょ。
しかも自分の手は汚すことなく。

……

とても賢い人ではないですか!
もちろん何やってもいいってわけじゃないですが、私は、自分の欲望に忠実な人って大好きだし、他人を自分のために働かせることができるというのはある種の才能だと思うので、魅力を感じます。


ぜひとも側室としてでも若宮に入内して、桜花宮を引っ掻き回してくれたらよかったのに。
これであせびが桜の君に選ばれていたら、もうちょっとこの作品への好感度は上がっていたかも。
あ、金烏陛下のところでもいいな。かつて愛した人の面影を、その娘に見出す陛下……萌えるよね。

私がこの作品を嫌いなのって、もしかしたら推しキャラがさっさと退場しちゃったからなのかもしれない(笑)
同じ作者なら『発現』の方が面白かったかな。

……

ところで、どうでもいい話なんですが、竹崎真美先生の漫画『金瓶梅』ってご存知ですか?
中国で何度も発禁処分を受けた猥書(官能小説みたいなもの)を漫画化したもので、成金のイケメンと、その6人の妻たちの、愛と欲望にまみれた日常を描いた作品なのですが あせびの君ってそこに出てくる瓶児ちゃんに似てると思う。彼女もまた一見、純真そうに見えて実は腹黒なキャラ。
私?もちろん瓶児ちゃん推し(笑)



↓「八咫烏シリーズ」感想
『楽園の烏』
『追憶の烏』



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