【単行本】乾くるみ(2004)『イニシエーション・ラブ』原書房
※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。
作品情報
著者:乾くるみ発行年月日:2004年4月5日
出版社:原書房
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感想
★★★★☆図書館本
うわー!やられたー!
って感じ。
「最後の2行で全てが覆る」「二度読みミステリー」といううたい文句から、どんでん返しものだということは分かっていたので、結構身構えて読んでいたのですが……
見事に騙されましたね(^^;)
もともと細かいことを気にしながら本を読むのは苦手で、それゆえに文章に散りばめられた情報量が多く、謎解きの力が試されるミステリー小説はほとんど読むことがなかったのですが、最近になってミステリー小説に興味を持つようになりまして。
それで、手始めに映画にもなった『イニシエーション・ラブ』を手に取ってみたのですが。
読み始めは、マユがやたらと人を渾名で呼んでいたので「これはきっと入れ替わりものだな!?」とか、便秘で入院したっていうのも「絶対中絶しただろ!?」とか、いろいろ疑いながら読んでいたのに、そこは雑な読み方しかできない私のこと。
途中からはそんなこと忘れて、普通に恋愛小説として面白く読んでいました(笑)
たっくんとマユの恋愛が、いかにも青春って感じで可愛くって!
こんな私なので、side-Bに入ってからも遠距離恋愛のお話として読んでいて、でも終わりに近づくにつれ「あれ?」と思うことはあったものの、大して気にも留めず、最後まで読んでしまうのでした。
で、最後の2行。
……
辰也って誰!?
……
はい。しっかり騙されました。
いやー、面白かった!全く気付かなかったです。
マユの渾名呼びには注意していたし、side-Aの時点でマユがそんなに純真な女じゃないことは予想していましたが……
たっくんの友達に辰也なんていたっけ?とパラパラ読み返して、ようやくside-Aのたっくんとside-Bのたっくんが別人であることに気付いたわけです。
そしてマユの浮気にも。
side-Aがside-Bのための伏線だったのですね~
慌てて紙に出来事を時系列にして書き出してみると、まー見事に交際期間が被ってました(笑)
作中に何度も出てくる『男女七人』がカギだったのですね。私は世代が違うのであまりピンとこなくて、読み流していました。反省……
出来事を辿ると、ちゃんと日にちが特定できるのも凄いです!
side-Aではマユのことは男を手玉に取る悪い女に違いないと疑っていました。
でもside-Bに入ってからは、マユはいつもたっくんのことを気遣って健気で可愛くて……私はすっかりマユの味方。
side-Bのたっくんについても、
内定を貰っていた大企業を蹴ったというのは「へー、富士通蹴ったんだー」と思ったし、
お洒落になって自信もついた様子なのには「マユがいろいろアドバイスしてたしねー」と、
石丸さんと出会ってマユを疎んじ始めたときには「都会に染まった途端、田舎の彼女捨てるとかサイテー」と。
マユが妊娠したときにはハードカバーの本ごときで声を荒げたり、いくら都会に出て変わったとしてもたっくんってこんな嫌なヤツだっけ?と思ったものの、「(side-Aの)初体験のときだって避妊しなかったしな」と、そもそもside-Aの時点でクズだったんだと納得し、たっくんがたっくんであることを疑いすらしなかったのです。
とはいえ、なんとなく違和感はありました。
最初に違和感を抱いたのは、たっくんからの電話をマユが先に切ったときの描写。「いつの間にそんなにマユに対する態度デカくなったんだ?」と(笑)
ただ、そこからは前述のように特に疑いを持つことはなく読み進め、再び違和感が湧きあがってきたのは終盤近く。
たっくんの浮気がバレて別れ話になったときの、「乱暴はしないで!殴らないで。……お願い」というマユのセリフ。
このセリフから、マユが前にもたっくんに暴力を振るわれたことがあったと推測されますが……そんな場面あったっけ?と思ったし。
同じく、最後の1ページで「大学の追いコンの後、酔った勢いでマユをホテルに呼び出したら喧嘩になって、つい彼女を叩いてしまった」と書かれていたけど、たっくんて大学生のときからDV男だったのか??と。
そんなふうに頭の中が?でいっぱいになったところに、最後の2行ですよ。
この謎が解けたときには、もう「凄い!」「感動!」と清々しい気持ちでいっぱいでした。
こんな見事に騙してくれたら、かえってスッキリしますね!
どんでん返しものはこうあってほしいです。
それから、マユあっぱれ!!!(え?そこ?)
確かにマユが夕樹と付き合い始めたのは、まだ辰也と付き合っていたときでしたが……
辰也はお酒入ったら荒れるし、暴力は振るうし、別れて正解でしょう。
夕樹と付き合いだしたころには、辰也との関係はもう終わっていたようなものですし。
私はマユの小悪魔な可愛さにすっかりやられてしまったので(笑)、マユには夕樹と幸せになってほしいです。
……でも、第3、第4のたっくんがいるかもね( ̄▽ ̄)
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↓作中に登場した小説の感想
綾辻行人『十角館の殺人』
アベ・プレヴォー『マノン・レスコー』
泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』
泡坂妻夫『乱れからくり』
↓乾くるみさんは短編も面白かったですよ(^^)
小学館文庫編集部編『超短編!大どんでん返し』