社会の圧力に飲み込まれた一人の女性――平路「モニークの日記」(呉佩珍ほか編『台湾文学ブックカフェ<1>女性作家集 蝶のしるし』所収)

文学作品としては表題作・陳雪「蝶のしるし」が抜きん出ていたなーと思ったけど、個人的には平路「モニークの日記」がめちゃくちゃ刺さりました!
複数形の、台湾文学。 恋愛結婚と出産を経て、幸せな家庭を手にしたはずの主人公が、「よき娘」「よき妻」を演じてきた人形のような過去に別れを告げ、同性への愛に生きる決心をする……その後の台湾レズビアン文学に大きな影響を与えた表題作「蝶のしるし」のほか、女性作家の小説全八篇を収録。 (Amazon.com より引用)

作品情報

『台湾文学ブックカフェ<1>女性作家集 蝶のしるし』

著者:江鵝、章緣、ラムル・パカウヤン、盧慧心、平路、柯裕棻、張亦絢、陳雪
訳者:白水紀子
編者:呉佩珍、白水紀子、山口守
発行年月日:2021年12月20日
出版社:作品社

収録作品
  • 江鵝「コーンスープ」
  • 章緣「別の生活」
  • ラムル・パカウヤン「私のvuvu」
  • 盧慧心「静まれ、肥満」
  • 平路「モニークの日記」
  • 柯裕棻「冷蔵庫」
  • 張亦絢「色魔の娘」
  • 陳雪「蝶のしるし」

感想

★★★★☆
図書館本

もともとミステリー小説が好きだから、どうやら主人公が娘・モニーク殺害の嫌疑をかけられているらしい…という導入で一気に引き込まれました。
そして徐々に明らかになる真相にワクワクしつつ、胸がチクリと痛くなりました。

この小説の中で、これでもか!と登場する、若いころに流行ったり好きだったブランド名。
「あー、懐かしいな」と思うと同時に、「もう着られないな」と思う寂しさ。

つい先日、高校時代の友人とショッピング中にOLIVE des OLIVEで可愛いニットを見つけて「欲しいな」と思ったんですが、「若すぎるよねぇ」と気後れしてしまって結局スルーしてしまったんですよね。
誰もが建前では「年齢なんて気にしなくてもいい」「自分の好きな服を着ればいい」と言うものの、実際に年齢に合わないファッションをしている人を見れば「イタい人」認定することでしょう。
こんな社会の風潮が、主人公にモニークという娘を創らせたんだろうなあ…と、気持ちが重くなりました。

主人公が中年女性というだけで、周囲の人が当たり前のように彼女を、子どもがいる既婚女性だと思い込んでいるというおかしさと恐ろしさ。
社会が「こうあるべき」と押し付けてくる生き方から外れたとき、そこに待ち受ける孤独と苦痛が容赦なく描かれていて、他人事とは思えず引き込まれました。
主人公の姿は決して小説の中だけのものではなく、私たち一人ひとりが背後に抱えている影でもあるのだと思います。



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