コンプライアンス中毒の正体は脳にあった――中野信子『咒の脳科学』
内容は面白かったし、自分の中の価値観を見直すきっかけにもなったのだけど。
正直なところ、咒とはあまり関係なかったような…?
著者:中野信子
発行年月日:2025年3月4日
出版社:講談社
図書館本
図書館で別の本を探していたときに、「咒(まじない)」という字が目に飛び込んできて思わず手に取った本。
「呪(のろい)」の異体字だけど、主にネガティブな感情を伴う「呪」と違って、「咒」はポジティブな想念も含むそうです。
著者が「死にたい」と言う友人を連れて出雲大社にお参りしたら、その友人は生きる力を取り戻したのだとか。私たちの認知は言語や行動に大いに影響を受けているということだったので、きっと著者の友人を心配する気持ちが、著者の言葉やお参りという行動によって友人に伝わり、咒の効果が出たということなのでしょう。
咒なんて非合理的だと思っていましたが、私が想像していた以上に咒は力を持っているし、身の回りには咒があふれているのだと気づかされました。
この本の中で私が特に印象に残ったのは「快楽」の話。
著者は、オールズとミルナーによるあの有名な実験(ラットの脳に電極を刺し、ラットがレバーを押すと快楽中枢が刺激されるよう仕掛けると、ラットは飲食を忘れてレバーを押し続けるというやつ)をはじめ、様々な実験を例に挙げ、人間は快楽に弱い生き物なのだと説きます。そして、誰かをバッシングすることは人間にとって快楽なのだということも。
この本を読んで、自分の中にあった「正義中毒」者への軽蔑が少し和らいだ気がします。
社会のルールを守ること自体は大切だけど、それに違反した人をSNSで吊し上げ過剰に叩く人たちがいますよね。私はこれまで、そうした人たちを「幼稚だな」「バカだな」と思って見下していました。
でも、人間がこうした正義中毒に陥るのは、ある意味では生物としての仕様なのだと腑に落ちました。
理解したからといってバッシングを肯定する気はありませんが、なぜそうなるのかが見えたことで、少し距離を置いて観察できるようになった気がします。
じゃあ私たちはどうすれば快楽に溺れずに生きられるのか、と考えたとき、残念ながらこの本にその答えが明示されているわけではありません。
人間は誰もが快楽に弱いのだと理解すること、そして、自分も簡単に中毒に成り得るのだと自覚しておくこと…くらいでしょうか?
きっとこれはとても難しいことだから世の中から誹謗中傷や炎上がなくならないのでしょうが、その仕組み=脳機能を理解する人が増えれば、少しずつ健全な社会へと向かうかもしれません。
私たちの呪/咒は良い面でも悪い面でも他者に影響を与える。
ならばポジティブな咒をするよう心掛けよう。そう思わせてくれる一冊でした。
愛とは重いもの
瞬きの中の永遠
正直なところ、咒とはあまり関係なかったような…?
なぜ、私たちは、周りの言葉にこんなに苦しんだりするのでしょう?
人を息苦しくさせる――SNSにあふれる呪いの言葉、病気にもしてしまう暗示。刷り込まれる負けグセ。
脳を中毒にする――イケニエを裁く快楽、罰を見たい本能や正義という快感。ウソつきの遺伝子がモテる。
知りたくなかった現実――男のほうが見た目で出世、女はここまで見た目で損をする。脳に備わっていたルッキズム。
私たち人間の社会は咒(まじない)でできていると言って過言ではないのです。
なぜなら言葉が、意識的と無意識的とにかかわらず人間の行動パターンを大きく変えてしまう力があるから。
人間関係や仕事、人生の幸不幸も、あなたを取り巻く社会の空気さえ。
そして今SNSがひとりひとりを孤立させ、言葉はいっそう先鋭化しています。
正義や快楽に中毒する脳そのものが、そもそも人間社会を息苦しくする装置です。
本書の役割は、脳にかけられた咒がどのようなものかを知らせ、解放することにあります。 (Amazon.com より引用)
作品情報
『咒の脳科学』著者:中野信子
発行年月日:2025年3月4日
出版社:講談社
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感想
★★★☆☆図書館本
図書館で別の本を探していたときに、「咒(まじない)」という字が目に飛び込んできて思わず手に取った本。
「呪(のろい)」の異体字だけど、主にネガティブな感情を伴う「呪」と違って、「咒」はポジティブな想念も含むそうです。
著者が「死にたい」と言う友人を連れて出雲大社にお参りしたら、その友人は生きる力を取り戻したのだとか。私たちの認知は言語や行動に大いに影響を受けているということだったので、きっと著者の友人を心配する気持ちが、著者の言葉やお参りという行動によって友人に伝わり、咒の効果が出たということなのでしょう。
咒なんて非合理的だと思っていましたが、私が想像していた以上に咒は力を持っているし、身の回りには咒があふれているのだと気づかされました。
この本の中で私が特に印象に残ったのは「快楽」の話。
著者は、オールズとミルナーによるあの有名な実験(ラットの脳に電極を刺し、ラットがレバーを押すと快楽中枢が刺激されるよう仕掛けると、ラットは飲食を忘れてレバーを押し続けるというやつ)をはじめ、様々な実験を例に挙げ、人間は快楽に弱い生き物なのだと説きます。そして、誰かをバッシングすることは人間にとって快楽なのだということも。
この本を読んで、自分の中にあった「正義中毒」者への軽蔑が少し和らいだ気がします。
社会のルールを守ること自体は大切だけど、それに違反した人をSNSで吊し上げ過剰に叩く人たちがいますよね。私はこれまで、そうした人たちを「幼稚だな」「バカだな」と思って見下していました。
でも、人間がこうした正義中毒に陥るのは、ある意味では生物としての仕様なのだと腑に落ちました。
理解したからといってバッシングを肯定する気はありませんが、なぜそうなるのかが見えたことで、少し距離を置いて観察できるようになった気がします。
じゃあ私たちはどうすれば快楽に溺れずに生きられるのか、と考えたとき、残念ながらこの本にその答えが明示されているわけではありません。
人間は誰もが快楽に弱いのだと理解すること、そして、自分も簡単に中毒に成り得るのだと自覚しておくこと…くらいでしょうか?
きっとこれはとても難しいことだから世の中から誹謗中傷や炎上がなくならないのでしょうが、その仕組み=脳機能を理解する人が増えれば、少しずつ健全な社会へと向かうかもしれません。
私たちの呪/咒は良い面でも悪い面でも他者に影響を与える。
ならばポジティブな咒をするよう心掛けよう。そう思わせてくれる一冊でした。


愛とは重いもの
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瞬きの中の永遠
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