バッタ研究にかける情熱に圧倒される――前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』

著者が『ファーブル昆虫記』に感銘を受けて昆虫学者を目指すところまでは理解できる。
でも…「バッタに食べられたい」ってどういうこと!?

バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。 それが、修羅への道とも知らずに……。『孤独なバッタが群れるとき』の著者が贈る科学冒険ノンフィクション! (Amazon.com より引用)

作品情報

『バッタを倒しにアフリカへ』

著者:前野ウルド浩太郎
発行年月日:2017年5月20日
出版社:光文社

感想

★★★★☆
図書館本

「バッタに食べられたい」という著者の夢には結局最後まで共感できなかったけど…
著者のひたむきさと情熱に、とにかく圧倒されました!
理解不能な夢でも、そこにかける想いの強さは人の心を動かす力を持つんだなあ。

印象に残ったのはババ所長の優しさ。
もちろん著者の情熱が所長に伝わったからだろうけど、異国からやってきた若い研究者を惜しみなくサポートをしてくれる所長の懐の深さに胸を打たれました。
厳しい環境や不安がある中で、誰かの善意がどれほど心強いものになるのか、改めて気づかされました。

もう一人、忘れられないのがティジャニ。
最初は、お調子者だし頼りないな~と思っていましたが、彼の率直な人柄はとても魅力的。
言葉も文化も異なる彼と協力し合い、ときには迷惑をかけられたりしながらも絆を深めていく様子は、まるで青春小説のようでした。

そして、こうした人たちとの人間ドラマも面白かったけど、やっぱり惹きつけられたのは、研究者としての著者の姿です。
日本学術振興会からの支援期間が終了して無収入になってもなおアフリカに残ってバッタの研究を続けようという意志の強さ。
思うようにバッタと出会えず研究が進まない苛立ち、成果を出さなければ帰国後のポストがないという焦燥感。そうしたリアルな苦悩が赤裸々に綴られていただけに、無収入でもバッタの生態を明らかにしようとする執念に驚かされました。

また、研究者の掟に反するという広報活動=売名行為をしてでも、バッタ研究の意義を世に知らしめようという著者の覚悟が素晴らしい!
実際、私が図書館でこの本を手に取ったのは、間違いなく表紙のインパクトのせいです。
受け身でただ待っているだけではいけないんだ、自ら道を切り開かなくてはいけないんだ、ということを教わりました。

この本を読んでいる間、何度も笑い、何度も胸が熱くなりました。
私自身が今後著者のような挑戦をする可能性は限りなくゼロに近いですが、何か新たな一歩を踏み出したくなったとき、この本を思い出せば、きっと背中を押してくれるんじゃないかと思います。



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