孤独と抵抗を静かに語る言葉たち――劉霞(リュウ・シア)『毒薬』

この本が発売された2018年3月時点では著者はまだ北京で軟禁状態に置かれていたようですが、同年7月に軟禁を解かれドイツへ出国。
さらに今年7月からは日本に滞在しているそうで…

『私は外務省の傭われスパイだった』を読んだばかりということもあって、日本も危ないんじゃ?と心配になってしまいます。

劉霞から劉暁波へ、詩集『牢屋の鼠』への返歌。

一匹の魚、一羽の鳥となった劉暁波への切なくかなわぬ恋文。
劉暁波に与え続けた同志としてのエール。
劉暁波亡きあとも生きるための薬である。 (Amazon.com より引用)

作品情報

『毒薬』

著者:劉霞
訳・編者:劉燕子・田島安江
発行年月日:2018年3月2日
出版社:書肆侃侃房

感想

★★★☆☆
図書館本

読んでいて、ひんやりとした風が心の奥に吹き込んでくるような感覚に襲われました。

どうしても著者の夫・劉暁波氏が民主化運動に参加したために投獄されたことや、著者自身が軟禁生活を強いられていたという背景情報があるので、純粋に「詩」としてこの詩集の作品を味わえたかは微妙かも…?
文学作品としての詩というよりは、社会派作品を読んでいたような気分でした。

そんな中で印象に残ったのが、「孤独な風景」という詩。

孤独な風景が
道ゆく人の目に映っている
単調で荒涼とした
『辞海』の中で忘れられたたった一つの文字のように
砕けたメガネのレンズの破片に映った貌のように


何万もの言葉が並ぶ辞書の中で、たった一つだけ誰にも引かれることなく取り残されている文字…。そのイメージはあまりに鮮烈で、思わずページをめくる手が止まりました。
著者の視線の鋭さを感じますね。孤独って誰からも顧みられない痛みなのかもしれない。

もうひとつ心に残ったのは、この詩集全体に漂う静かな抵抗。
激しい怒りの言葉で社会へ訴えかけるわけではなく、淡々と抵抗の意志を描くことでかえって強い共感を生んでいるように感じました。

私は今もなお、胸の奥に余韻が残っています。
人の心をじわりと締めつける詩集だったと思います。



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