日本の弱腰外交を突きつける一冊――原博文『私は外務省の傭われスパイだった』(茅沢勤訳)
タイトルからして衝撃的。
「スパイもののノンフィクション?ちょっと小説っぽくて面白そう」くらいの軽い気持ちで読み始めましたが、読み進めるうちに全然そんな軽い話ではないと息をのみました。
著者:原博文
翻訳:茅沢勤
発行年月日:2008年5月19日
出版社:小学館
図書館本
外務省の役人たちは著者のアイデンティティの揺らぎや愛国心につけ込んでスパイ活動をさせた挙句、いざ著者が捕まったら知らんぷり。そりゃ「国のために働こう」と考える日本人が減るのも当然です。
私が読んでいて忘れられないのは、各国大使館の対応の違いを描いたくだりです。
アメリカや韓国の大使館は、自国民が刑務所内で不自由しているとすぐさま動いて保護や支援に奔走する。それに対して日本はどうだったかというと、自国の囚人に「中国政府の管理に従い、規則をよく守って、刑務官にも面倒をかけないようにしなさい」と諭し、中国の刑務官から「日本の外交官はまるでボランティアの外国籍囚人管理者のようだ」と嘲笑される始末。
アメリカが自国民保護に熱心なのは想像に難くないんだけど、韓国も、というのが意外でした。
韓国と中国、どう考えても中国の方が優位でしょうに、それでも韓国大使館は中国と強気で交渉するのです。そして実際に、韓国籍の囚人はすぐに仮釈放されるのだとか。
日本の弱腰外交、情けない…
と思いつつ、自分に厄介ごとを持ち込む人間と関わり合いになりたくない、と感じてしまう気持ちは私も一緒なので、エラソーなことは言えません。
ただ、本書の事件の場合は外務省側が著者に働きかけてスパイ活動をさせたわけで。
そんな著者を見捨てたうえに、出所後の生活支援すらしないというのは、いくらなんでも酷すぎると憤りを覚えました。
佐藤優氏との特別対談を読むと、必ずしも最初から著者を捨て駒にするつもりではなかったようですが、他の事例と合わせても外務省が協力者を軽んじていたことは明らかです。
こんな冷酷さでは、日本のために尽くそうとする人がいなくなってしまうでしょう。
さらに考えさせられたのは、私たち国民の姿勢です。
最近だと、アステラス製薬の社員が反スパイ法違反で捕まった件に関して、ネット上に「中国とビジネスする方が悪い」「自業自得だ」という冷たい声があふれていました。
同じ日本人に対するあまりの冷淡さに、胸の奥がざらついたのを覚えています。自分が仕事や旅行で海外に行って、そこで理不尽なトラブルに巻き込まれる可能性だってゼロじゃないでしょうに。
本書の外務省官僚にはもっと協力者を大事にしてほしいと思ったし、私たちも外交に無関心でいてはいけないと強く思わされた一冊でした。
コーヒーを飲むことは基本的な人権
機密文書
「スパイもののノンフィクション?ちょっと小説っぽくて面白そう」くらいの軽い気持ちで読み始めましたが、読み進めるうちに全然そんな軽い話ではないと息をのみました。
筆者は中国残留孤児2世で外務省の元対中国スパイ。
96年に中国国家安全省に逮捕され、懲役8年の判決を受けた。外務省は彼を見捨てた。
「日本のスパイ活動」と「中国の監獄」という数奇な実体験の書き下ろし。 (Amazon.com より引用)
作品情報
『私は外務省の傭われスパイだった』著者:原博文
翻訳:茅沢勤
発行年月日:2008年5月19日
出版社:小学館
![]()  | 
感想
★★★★☆図書館本
外務省の役人たちは著者のアイデンティティの揺らぎや愛国心につけ込んでスパイ活動をさせた挙句、いざ著者が捕まったら知らんぷり。そりゃ「国のために働こう」と考える日本人が減るのも当然です。
私が読んでいて忘れられないのは、各国大使館の対応の違いを描いたくだりです。
アメリカや韓国の大使館は、自国民が刑務所内で不自由しているとすぐさま動いて保護や支援に奔走する。それに対して日本はどうだったかというと、自国の囚人に「中国政府の管理に従い、規則をよく守って、刑務官にも面倒をかけないようにしなさい」と諭し、中国の刑務官から「日本の外交官はまるでボランティアの外国籍囚人管理者のようだ」と嘲笑される始末。
アメリカが自国民保護に熱心なのは想像に難くないんだけど、韓国も、というのが意外でした。
韓国と中国、どう考えても中国の方が優位でしょうに、それでも韓国大使館は中国と強気で交渉するのです。そして実際に、韓国籍の囚人はすぐに仮釈放されるのだとか。
日本の弱腰外交、情けない…
と思いつつ、自分に厄介ごとを持ち込む人間と関わり合いになりたくない、と感じてしまう気持ちは私も一緒なので、エラソーなことは言えません。
ただ、本書の事件の場合は外務省側が著者に働きかけてスパイ活動をさせたわけで。
そんな著者を見捨てたうえに、出所後の生活支援すらしないというのは、いくらなんでも酷すぎると憤りを覚えました。
佐藤優氏との特別対談を読むと、必ずしも最初から著者を捨て駒にするつもりではなかったようですが、他の事例と合わせても外務省が協力者を軽んじていたことは明らかです。
こんな冷酷さでは、日本のために尽くそうとする人がいなくなってしまうでしょう。
さらに考えさせられたのは、私たち国民の姿勢です。
最近だと、アステラス製薬の社員が反スパイ法違反で捕まった件に関して、ネット上に「中国とビジネスする方が悪い」「自業自得だ」という冷たい声があふれていました。
同じ日本人に対するあまりの冷淡さに、胸の奥がざらついたのを覚えています。自分が仕事や旅行で海外に行って、そこで理不尽なトラブルに巻き込まれる可能性だってゼロじゃないでしょうに。
本書の外務省官僚にはもっと協力者を大事にしてほしいと思ったし、私たちも外交に無関心でいてはいけないと強く思わされた一冊でした。
コーヒーを飲むことは基本的な人権
![]()  | 
機密文書
![]()  | 


