【単行本】髙谷朝子(2006)『宮中賢所物語―五十七年間皇居に暮らして』ビジネス社
※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。
作品情報
著者:髙谷朝子発行年月日:2006年1月25日
出版社:ビジネス社
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感想
★★★☆☆図書館本
昭和・平成に渡って宮中に勤めた女性が、宮中祭祀や日々の暮らしについて語った本で、貴重な話がたくさんありました。
筆者は賢所という、三種の神器の一つ「八咫鏡」が祀られた場所に内掌典として仕えていた方です。
内掌典がどういうものかについて本の中で詳しい説明はなかったように思いますが、おそらく巫女のようなものでしょうか。
で、その筆者でさえ、賢所のしきたりや作法について記録することは一切許されず、全て口頭で伝えられていたというから驚きです。
読んでいても頭がこんがらがるややこしい儀式や所作のあれこれを、筆者を含む内掌典たちはずっと記憶しているんだから本当に凄いですよね。
生き字引ってまさにこういう人のことを言うんだろうなあ。
宮中は「次(不浄)」「清(清浄)」の区別に厳しい、というのは『女官』でも見られましたが、あちらは明治時代のことなわけで。
まさか平成の世になってもこのしきたりが厳格に守られていたとは考えもしなかったです。
あまりの厳かさに読んでいて身が引き締まる思いがし、また、この現代に何もそこまでしなくても……と思ったりもしました(^^;)
でもこうして伝統が受け継がれているんですよね。ただただ敬服するばかりです。
御所に仕えていた女官とはまた違う職種のようで、筆者が天皇陛下はじめ皇族方と接する機会はあまりなかったようです。
それでも、なかなか外出できない内掌典たちのために、昭和天皇が彼女らを招いて映画を見せてあげた話だとか、当時皇后だった美智子さまが、入院中の筆者のためにスープを作って病院に届けさせた話だとか、心温まるエピソードが書かれていました。
あ、あとね。付録が面白かったですよ!衣服や祭祀、御所言葉の紹介がちょこっと。
御所言葉は『女官』にも載っていましたが、ご挨拶に関する記述は初めて見ました。
曰く、朝から夜まで誰に会っても「ご機嫌よう」。目上の人には感謝も謝罪も「恐れ入ります」。
神さまにお仕えする人たちは使う言葉も美しいのですね。
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