【単行本】小野美由紀(2020)『ピュア』早川書房



※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。

作品情報

著者:小野美由紀
発行年月日:2020年4月20日
出版社:早川書房

遠い未来、地球軌道上の人工衛星で暮らす女性たちは、国を守るために子供を産むこと、そのための妊娠を義務付けられていた。ただしそれには、地上に棲む男たちを文字通り「食べる」ことが必要とされる―そんな変わり果てた世界で「普通の」女の子として生きるユミの葛藤を描き、ネット上で旋風を巻き起こした衝撃作のほか、幼馴染みの性的な変身をめぐって揺れ動く青春小説「バースデー」、未曾有の実験により12人の胎児の母となった研究者のドラマ「幻胎」など、性とともに生きる人々の姿を活写する5つの物語。 (Amazon.com
より引用)




感想

★★☆☆☆
図書館本

どの短編も舞台は近未来って感じのSFだったけど、登場人物たちが抱える苦悩は、現代日本に生きる私たちと変わらないなーと感じました。
「性と生」がテーマだからか、どの作品にもエロ・グロ描写があって、しかも表現が直接的(・・;)
物語の展開に不必要な性描写は要らない派なので、「ちんこ」連発は下品で萎えましたが、それでも読んで良かったと思える作品ばかりでした。

表題作の「ピュア」は、「もしも、女性が男性を食べないと妊娠できない世の中になったら?」という衝撃的な設定のお話。
女性も男性も、生まれ持った性に基づいた役割に沿うように育てられ、そのレールから外れた者は異常と見なされる。そんな世界。
現代社会は男性優位で女性が生きづらさを強いられていると言われているけど、女性優位の社会になったからと言って、それで女性が幸せになれるわけではないらしい。そしてこの話の番外編「エイジ」によると、男性も。
ユミとエイジのピュアな愛には、尊ささえ感じさせられました。

続く「バースデー」は、親友だと思っていた女友達が、ある日突然、性転換して男性になるお話。
ジェンダーゆえに悩み苦しみながらも、それでも胸を張って生きていく人たちの姿に心を打たれました。この本の中では清々しくて一番好きだな。
もう何年も前だけど、私、LGBTを扱ったドキュメンタリー番組で、主人公と全く同じ境遇の少年のインタビューを見たことがあるんですよ。
幼なじみの性別が突然変わって、それだけでも戸惑っていたところに、実はずっと前から異性として好きだったと告白されキャパオーバー、という。
確かその二人は結局、お互い気まずくなったまま友人としての関係も終わってしまって、少年は幼なじみの変化を受け入れられなかったことを後悔し続けている……という辛い内容だったと記憶しているので、主人公たちが新しい関係を築こうとする姿はとてもキラキラして見えて、ジーンと胸が熱くなりました。

「To the Moon」「幻胎」も、ぶっ飛び設定ながらも興味深く読みました。
全話読み終えて、誰もが自分らしく生きられる世の中になればいいのに……と強く願わずにはいられません。



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