【単行本】村田沙耶香(2014)『殺人出産』講談社
※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。
作品情報
著者:村田沙耶香発行年月日:2014年7月15日
出版社:講談社
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感想
★★★☆☆図書館本
人口減少を食い止めるために、10人産んだら一人殺してもいい、という「殺人出産システム」が導入された世界のお話。
トンデモ設定だと思って読み始めたものの、ずしっと心に響くお話でした。(ちょっと小野美由紀『ピュア』と似てるかな?)
人を殺すために人を産むなんて、そんな非合理的な……!と思った殺人出産システムも、作中で「命を奪うものが、命を造る役目を担う」のはごく自然なことなのだと繰り返し述べられれば、そうかもしれない……と思ってしまったり。
しかも、その殺人のために出産する人は「産み人」として崇められ、殺される側の「死に人」も、人類繁栄のために犠牲になった立派な人として盛大に弔われるのだという。
けど、考えてみれば戦時中がまさにそんな時代だったんですよね。
今から100年ほど前は世界大戦で、殺人も裁かれるどころか称えられ、お国のために死ぬことが美化され……
それを思うと、100年後には殺人出産システムが本当に導入されていても不思議じゃないよなーなんて考えながら読んでいました。
ミサキちゃんが殺人出産を純粋に美しいもの、正しいものとして信じているように、世の中の流れが殺人を当たり前のものとして受け入れるようになれば、私もその考えに洗脳されるんだろうか。
恐ろしいなあ。いや、恐ろしいと感じることがそもそもおかしいのか?とか、頭の中はぐるぐる堂々巡り。
村田さんの本は『コンビニ人間』に続いてこれが二冊目ですが、普通や正常って何だろうと考えさせられます。
それにしても、こんなふうに自分がいつ殺されるか分からない世界に生きていれば、パワハラや不倫のような他人の恨みを買うような行為は控えるようになりそうなものだけど……案外なくならないものなんだろうか?
死に人は全身麻酔で苦しまずに死ねるっぽいし、死後、不当に貶められることもなさそうだし、そうなると犯罪の抑止力にはならないのかな。
産み人側も、殺したいほど憎い相手であっても、殺してしまえばその人は死に人として尊ばれる存在になってしまうわけだけど……命がけで10人も出産したのに、それで構わないんだろうか?私なら許せないけどなあ。
その辺も読みたかったかも。
「トリプル」「清潔な結婚」も面白かったですよ。
個人的には、生きる自由があるのと同じように死ぬ自由だってあっていいのではないか、という考えなので、「余命」のような世界って一瞬、素敵じゃん!って思ったのですが、人目を気にしてセンスのいい死に方を選ばないといけないというのも、また窮屈な世界ですね( ̄▽ ̄)
……でもやっぱり、自分の好きなときに好きなように死ねるってちょっと憧れるなあ。(別に自殺願望があるわけではないのでご安心を!)
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