【単行本】松井今朝子(2007)『吉原手引草』幻冬舎



※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。

作品情報

著者:松井今朝子
発行年月日:2007年3月15日
出版社:幻冬舎
なぜ、吉原一を誇った花魁葛城は、忽然と姿を消したのか?遣手、幇間、楼主、女衒、お大尽―吉原に生きる魑魅魍魎の口から語られる、廓の表と裏。やがて隠されていた真実が、葛城の決意と悲しみが、徐々に明らかになっていく…。誰の言葉が真実なのか。失踪事件の謎を追いながら、嘘と真が渦巻く吉原を見事に紡ぎあげた、次代を担う俊英の傑作。 (Amazon.com より引用)




感想

★★★★★
図書館本

はー、面白かった!葛城花魁かっこいー!!

吉原でも名高い妓楼「舞鶴屋」のお職・葛城が関わっているらしい、ある事件をめぐって、ある男が事件の関係者たちに話を聞いて回る形式で物語は展開するのですが……
話が進むにつれて徐々に事件の全容が明らかになってくる、という手法がとられているので、読めば読むほど作品の世界に引き込まれました。

事件の中身や、男の正体も分からないまま話が進むので、しばらくはじれったい思いをしながら読んでいましたが、読んでいるうちにどうやら葛城花魁が失踪したらしい、ということが分かってきます。
そりゃ情人と駆け落ちしたんじゃないの?と思いましたが違うらしい。

関係者たちの話を聞くうちに見えてきたのは、葛城花魁の表と裏。
器量よしで教養も嗜みも深く、度胸もある。
まさに吉原一の花魁だった葛城だけど、堂々と嘘をつくし、客に貢がせて、衣装を横流ししたりもしていたという。
葛城花魁の人となりについて、関係者たちが各種各様に解釈していて、彼女のいくつもの姿が見えてくるのが面白かったです。

真実なんて、その人の捉え方や主観次第でいくらでも変わるものなんだ、と思い知らされますね。芥川龍之介の『藪の中』みたい。

まあ、『藪の中』は読めば読むほど真相が分からなくなっていくのに対して、こちらはちゃんと明らかになるので、読み終わった後はすっきり爽やかですが。

さて、ずっと伏せられていた事件の真相は終盤になってようやく明らかになります。
それは、彼女が客の男を殺して逃げた、ということでした。

実は葛城花魁は、庶子ではあるものの武家の娘だったというのに、父と兄の仇を討つため自ら遊女に身を落としたのでした。
その覚悟たるや相当のものでしょう。
実に気高く「あっぱれな女」じゃないですか!


彼女が起こした事件は、表向きは相対死として楼主が処理したのだとか。
楼主だけでなく番頭に新造、床廻し……真実を知っているはずの人たちだけど、誰一人として喋らなかった。みんな葛城花魁の心根に惚れていたんだねぇ。

結局、葛城花魁は関係者たちの証言の中でしか登場しなかったけど、本当は何を思い、何を考えていたんだろう。
彼女は「稀代の嘘つき」だというから、どんなどんでん返しが待っているかと思いきや、そこは素直な結末を迎えました(笑)

でも大嘘つきはずっと正体不明だった聞き手役の男ですよね。
ようやく売れない戯作者だと判明したかと思いきや、それも仮の姿でその正体は小人目付。幕府の役人だったのだから。



↓舞鶴屋先代楼主のころの話も面白かったですよ。
『吉原十二月』



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