【文庫本】ラファイエット夫人(1976)『クレーヴの奥方 他二篇』(生島遼一訳)岩波書店
※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。
作品情報
著者:ラファイエット夫人訳者:生島遼一
発行年月日:1976年4月16日
出版社:岩波書店
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感想
★★★★☆図書館本
『マノン・レスコー』と同じく、フランス古典文学の名作。
……なのに、まるで源氏物語を読んでいるような気分になったのはなぜだろう。
どちらも宮廷が舞台で、心理描写が丹念なところが似ているのかなー。
翻訳によるところも大きいかもしれませんが。
主人公・クレーヴの奥方を「奥方」、その夫を「殿」だなんて、ずいぶん日本的じゃないですか?
エリザベート皇女のことを「皇女さん」「宮さん」と呼び始めたときには、一体どこの国の話なんだ!?と驚きましたよ(^^;)
文章自体は全体的に読みやすいし、すごく好きだったのですが……
表記のゆれ(?)が気になりました。
皇太子妃マリ=ステュアールのことを「太子妃の宮さまとお呼びしている」と書いてあったのに、2ページ後では「皇太子妃」に呼称が変わっているし。
そもそも国王夫妻は「国王」「王妃」と呼ばれているのに、その息子夫婦が「皇太子」「皇太子妃」なのはなぜ?(「王太子」「王太子妃」じゃダメなの?)
あと『クレーヴの奥方』では「ギーズ公」だったのが、同じ本に収録された『モンパンシエ公爵夫人』では「ギュイーズ公」になっていたり。
この本の登場人物は主に官職名で呼ばれるため、ただでさえ世界史に疎い私は慣れるまで大変だったのに、呼び名がころころ変わるもんだから誰が誰だかさっぱりでした( ̄▽ ̄)
あ、それから、人物名や地名その他がフランス語読みなのにも混乱したなー。
皇太子妃のマリ=ステュアールって誰だよと思ったら、メアリー・スチュアートのことでした(汗)
他にもアン・ブーリンがアンヌ・ボレインだったり。
聞き慣れない名前が出てくる度に調べながら読んでいたので、最初のうちはなかなかページが進まず途方に暮れました。
でも物語には宮廷の権力争いも絡んでくるので、史実の人物は押さえておいて良かったです。
で、それはともかくとして。
古典文学に描かれる道ならぬ恋ってどうしてこんなに魅力的なのでしょう!
美しく慎み深い人妻が、夫以外の男(しかも美貌の貴公子)への恋に悩む姿が、淡々と、でも細やかに描かれていて、奥方の想いがリアリティをもって伝わってきました。
それから奥方とヌムール公だけでなく、夫のクレーヴ殿の心理描写も綿密で、私はむしろこのクレーヴ殿に惹かれたかな。
奥方はヌムール公に流されそうになる自分を支えてほしくて、殿にヌムール公への思いを打ち明ける(!)んだけど、打ち明けられた殿の方は奥方を深く愛しているから、この告白にショックを受けるのです。
妻を信じたい!でも疑ってしまう……!という殿の苦しみがリアルで、彼に深く共感しました。
時代が変わっても、人間の心理というのは変わらないものですね。
それだけに、殿に詰られて「あなたはきっとあたしの気持をよくおわかりになってくださると思ったのは間違いでしたかしら」なんて開き直り発言をしてしまう奥方にイライラしたり(^^;)
殿が死んでからもヌムール公に靡かなかった奥方の誇り高さはあっぱれだと思いましたが。
同時収録の『モンパンシエ公爵夫人』『タンド伯爵夫人』も、『クレーヴの奥方』と同じく道ならぬ恋に悩む美しき人妻の話。どちらも短編。
けど、この2つの作品の主人公である人妻たちは、クレーヴの奥方に比べたら流されやすい性格のように思われます。
タンド伯爵夫人なんて不倫相手の子を身籠ってしまうし(^^;)
作者のラファイエット夫人は、これらの作品を通じて、女性は貞節を重んじて生きなくてはならないと言いたいんだろうか。
『モンパンシエ公爵夫人』のラスト3行なんかを読んでいると、そんな感じがします。
しかし……この本の登場人物は男も女もみんなおしゃべり好きだなー。
秘密なんて守られやしない。
こんなんじゃ誰も彼も生きにくいだろうなーと思ってしまった(;^ω^)
ところで、作者のラファイエット夫人の名前から私が真っ先に思い浮かべたのは、ベルばらにも出てくるラ・ファイエット侯!
もしや彼の夫人だったりして……!?と考えましたが全然違いました(笑)
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