【単行本】ミヒャエル・クンツェ(1993)『火刑台への道』(鍋谷由有子訳)白水社
※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。
作品情報
著者:ミヒャエル・クンツェ訳者:鍋谷由有子
発行年月日:1993年7月5日
出版社:白水社
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感想
★★★☆☆図書館本
おそらくミュージカルファンの間では、脚本家・作詞家として有名なミヒャエル・クンツェさんですが、法学者・作家としての顔も持ち合わせておいでです。
この本はそんなクンツェさんが、1600年にミュンヒェンで実際に起こった「パッペンハイマー裁判」という、魔女狩り事件を題材に書いたもの。
「パッペンハイマー裁判」って法制史上有名な事件だそうですが、恥ずかしながら私はこの本を読んで初めて知りました。
ただ、グーグルでこの裁判のことを検索しても、引っかかるのはほとんどこの本に関する情報ばかりなので、日本では一般には知られてないのかな、とも思いますが。
本には尋問の内容や囚人の証言、さらには処刑の様子まで詳細に記されていて驚きましたが、それもそのはずで。
そもそもこの裁判は最初から公開処刑を目的としたものだったので、裁判の記録がほぼ完全な形で残っているのです。
え、公開処刑ありきって……それってつまり冤罪の可能性も大いにあるんじゃないの?
と思うのですが、この本はあくまで記録に基づいた研究書なので、囚人が実際に公開処刑に値するほどの罪を犯したかどうかについては述べていません。
それでも、クンツェさんが「裁く側」に疑問を抱いていたことはひしひしと伝わってきます。
囚人たちに行われた拷問や処刑は本当に酷くて、よくもまあ同じ人間に対してこんな仕打ちができたもんだと、読んでいて胸がつぶれる思いでした。
私の勝手な考えでは、娯楽の少ない時代だったから、実際に魔女がいるかどうかはどうでもよくて、ある種、憂さ晴らし的に魔女狩りが行われていたのではないかと想像していたのですが……
この本を読む限りでは、当時の人々(インテリ層から大衆に至るまで)は魔女の存在を本気で信じていて、裁く側の人間たちは特に自分たちの行為を正しいことだと信じて疑わなかったようです。
囚人が拷問に耐えて審問官の希望通りの証言をしなければ、それは拷問に耐える力を悪魔が囚人に与えたから。
囚人が拷問に耐えきれず死んだら、囚人に自白させないために悪魔が囚人を殺したから。
……と、囚人たちは結局あれこれこじつけて魔女に仕立て上げられていて、現代の視点から見ると「もう滅茶苦茶やん」と呆れさえするけど、当時の知識人たちは大真面目にこれを信じていて、魔女狩りという犯罪を正当化していたのだから恐ろしいです。
しかも、この本は囚人たちが処刑されて終わるのですが、新たに魔女として告発された裕福な女性たちは保証金を払って釈放されたのだというから、なんともやるせない。
処刑された囚人たちは財産を持たない放浪者の一家でしたからね……。
エピグラフの「滅亡へ向かっていく時代には、罪人が求められる。そして、何かしら日常から外れたものはすべて、それだけですでに罪があるのだ。」というヴィル-エーリッヒ・ポイッケルトの言葉が強烈に心に残りました。
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