【文庫本】永江朗編(2021)『文豪と感染症 100年前のスペイン風邪はどう書かれたのか』朝日新聞出版


※当ブログの記事は全てネタバレ前提で書いていますのでご注意ください。

作品情報

編著:永江朗、芥川龍之介、秋田雨雀、与謝野晶子、斎藤茂吉、永井荷風、志賀直哉、谷崎潤一郎、菊池寛、宮本百合子、佐々木邦、岸田國士
発行年月日:2021年8月30日
出版社:朝日新聞出版
100年前に日本を襲ったスペイン風邪は感染者数2千万人以上、死者は45万人とも言われる。芥川・与謝野晶子・荷風・志賀直哉・谷崎…新型コロナの出口が見えない今、あらためて文豪たちが描いた現実から学ぶものがあるのではないか。文庫オリジナル・文学アンソロジー。【解説】岩田健太郎 (Amazon.com より引用)


感想

★★★☆☆
図書館本

最初に収録されている「書簡」(芥川龍之介)のページを開いたら、句読点&改行なしでずらずら文字が続くもんだから、まさかずっとこの調子なのか……?と不安でしたが、続く「『秋田雨雀日記』より」(秋田雨雀)以降は句読点も改行もあったのでホッとしました(;^ω^)笑

書簡や日記から見えてくるスペイン風邪も興味深かったけど、やっぱり私には小説が面白かったなあ。

特に「流行感冒」(志賀直哉)が好き!人をある一面だけで判断してはいけないとしみじみ感じさせてくれる、それでいて説教臭くない爽やかな話でした(^^)
「あの時帰して了えば石は仕舞まで、厭な女中で俺達の頭に残る所だったし、先方でも同様、厭な主人だと生涯思う所だった。両方とも今と其時と人間は別に変りはしないが、何しろ関係が充分でないと、いい人同士でもお互に悪く思うし、それが充分だといい加減悪い人間でも憎めなくなる」
「本統にそうよ。石なんか、欠点だけ見れば随分ある方ですけれど、又いい方を見ると中々捨てられない所がありますわ」

その次に収録されている「途上」(谷崎潤一郎)もなかなか。
谷崎ってこういうミステリーっぽい話も書いてたんですねえ。
正直、直接的な証拠は何もないんだし湯川はシラ切り通せばいいと思うんですが(笑)
この作品では湯川=犯人で間違いないんだろうけど、こんな推測の域を出ない推理で犯人にされちゃたまらんわな。
巻末の解説で岩田健太郎氏(神戸大学大学院医学系研究科教授)が、この作品の感染症学的におかしな点にツッコミを入れていたのも面白かったです。
それはさておき、生水や生物を口にするだけで簡単に伝染病にかかってしまう、不衛生な時代だったんだなーというのがよく分かりました。

「嚔『女婿』より」(佐々木邦)を読んでビックリしたのは、酸素吸入という治療法が100年前から存在したんだ!ということ。
この本の収録作に登場する感染症対策って、うがいにマスク、ソーシャルディスタンス、と現代の対策とほとんど変わらなくて案外進んでたんだなーと感じていましたが(あるいは現代まで進歩がない?)、治療に関しても、隔離、充分な休息、そして肺炎が重症化したら酸素吸入……と、こちらも現代と同じような感じ。
妙子さんの母が「酸素吸入で命を買ったようなもの」と言っていたけど、有効な薬もなかった時代だから本当にその通りでしょうね。
若さもあってスペイン風邪からズンズン回復した新夫婦。清之介君はきっと妙子さんの尻に敷かれながらも幸せな家庭を築くんだろうなあと思わせてくれる、カラッとして愉快なお話でした。



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