灰色の鳥――村上龍『新装版 限りなく透明に近いブルー』
僕の部屋は酸っぱい匂いで充ちている。テーブルの上にいつ切ったのか思い出せないパイナップルがあって、匂いはそこから出ていた。 切り口が黒ずんで完全に崩れ、皿にはドロドロした汁が溜まっている。 これだけでもう吐きそう…。 なのに読後感は意外と悪くない。 とにかく文体が素晴らしかった! 村上龍のすべてはここから始まった! 文学の歴史を変えた衝撃のデビュー作が新装版で登場!解説・綿矢りさ 米軍基地の街・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日々の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめく――。著者の原点であり、発表以来ベストセラーとして読み継がれてきた、永遠の文学の金字塔が新装版に! 〈群像新人賞、芥川賞受賞のデビュー作〉( Amazon.com より引用) 作品情報 『新装版 限りなく透明に近いブルー』 著者:村上龍 発行年月日:2009年4月15日 出版社:講談社 新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫 む 3-29) 感想 ★★★★★ 購入本 圧倒的な文体の魅力 この作品の魅力は、何といってもその文体。 解説で綿矢りささんが書いているように、主人公・リュウは本当に見てるだけの存在でした。 リュウの目を通して描かれるのはドラッグとセックスに溺れる若者たちの退廃の日常で、私たち読者からすれば過激で濃密な出来事。彼らが非行に走るきっかけを描いたりしていくらでもドラマチックにできそうなのに、作者はそうはしない。 あまりにも淡々と描かれるので、新幹線の窓からあっという間に過ぎていく風景をただ眺めているような気分でした。 でも、語り手であるリュウの感情が抑えられているからこそ、彼らの世界の異常さが際立つんですよね。 リュウをはじめとする登場人物たちが抱える虚無感にも。 登場人物の心情についてはほとんど描かれていないのに、全員心の中では深く傷ついていて、でもどうすればいいのか分からずもがいている… というのがジリジリ伝わってくるので、読んでいてどんどん気分が沈んでいきました。 綿矢りささん曰く、一般的に人は「大人になれば見たくないものをわざわざ見る必要はないから目を背ける」もの。 リュウの恋人・リリーや他の仲間たちはこのタイプの人...