「家」に人生を支配された人々の物語――山崎豊子『花紋』

明治・大正の家制度って、想像以上に人の人生を縛っていたんだなあ。

誇り高き大地主の総領娘っていうと、私は『風と共に去りぬ』のスカーレットが思い浮かんだけど…
あっちはスカーレットが前向きでたくましいからか、物語全体がどこかカラッとしているんですよね。
それに対して、郁子とこの作品に漂う陰鬱さよ。

ろうたけた美貌とたぐいまれな才を宿し、大正歌壇に彗星の如く登場し、束の間の輝きを放って突如消息を断った幻の歌人御室みやじ。河内長野の大地主の総領娘として、苛酷な因襲に抗いながら、国文学者荻原秀玲との宿命の恋に全てを賭け、略伝に夭逝と記されたように、自らの生をまで世間から葬り去った、激しい情熱と苦悶に貫かれたその半生を重厚な筆致でたどった長編小説。 (Amazon.com より引用)

作品情報

『花紋』

著者:山崎豊子
発行年月日:2006年4月5日
出版社:新潮社

感想

★★★★☆
図書館本

総領娘の郁子はもちろんだけど、葛城家の誰も彼もが「家」というものに囚われていて、読んでいるこっちまで息苦しさを感じました。
八代前まで遡って身元調べをしたというのに、郁子も、養子婿の夫も不幸になってしまって…
他人の評価は当てにならないということでしょうか。

そう言えば、

「よしさん、いいところへいらしたわ、今、源氏物語の女性を、このお家の中の女性にたとえて品定めをしようと思っているの、さしずめ、露わなお妬み心を持った弘徽殿の女御は、新家のお葉さま、勝れておきれいなお顔をなさりながら、ねっとりと内に籠ったお妬み心を持った六条の御息所は、お継母さま――、もの静かなひそやかさを持たれたお恵さまは、夕顔、明るくてご自分のご婚礼の日にもころころとお笑いになっておられたお歌さまは玉鬘、あどけなくお可愛らしい妹嬢さまは紫の上、そして何をおいてもお気ぐらいの高い貴女は、明石の上というところでいかが――」

小牧先生のこの見立ても、郁子が明石の上って「どのへんが!?」って感じだし。
実の両親が揃って幸福に暮らしていたころから癇が強くて我がままだったし、結婚後は夫を蔑ろにし、強引に隠居させ、最終的には納戸に閉じ込め粗末な食事を与え…
郁子の方がよっぽど弘徽殿の女御っぽいけどな~と思いながら読んでいました。

ま、小牧先生は郁子の味方だから継母や妾腹の叔母を悪く言うのも仕方ないけど、作中では悪役のこの二人だって葛城家のせいで苦労してますよね。
作中では総領娘の郁子だけが「家」の被害者のように描かれているけど、みんなが「家」という仕組みの中に閉じ込められている。
富士正晴氏が解説で養子婿の夫について「もともと悪い男でもないようだし」と書いているように、もとは悪意のない人でも、葛城家の閉鎖的な因習世界で暮らすうちに歪められてしまうのでしょうね。

この作品ってつくづく、「家」というものに人生を支配された人々の物語なのだと思いました。



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