戦時中の空気の重さが胸に刺さる――佐多稲子「乾いた風」(『キャラメル工場から――佐多稲子傑作短篇集』所収)

労働や戦争がテーマならいくらでもドラマチックな描き方ができそうなのに、それをせず、淡々とした筆致なのがかえって人間の心を露わにしているようで引き込まれました。

少女工員の労働の日々を描いたデビュー作「キャラメル工場から」、非合法の地下政治活動での女性の心の傷を描く「疵あと」、女ともだちとの数十年ぶりの再会と過去の事件を描く「時に佇つ その五」……労働、地下活動、戦争、東京や長崎の町、懐かしい友人たちについて自らの経験をもとに書き続けた「短篇の名手」佐多稲子。その最良の作品を収録した文庫オリジナルの短篇選集。 (Amazon.com より引用)

作品情報

『キャラメル工場から――佐多稲子傑作短篇集』

著者:佐多稲子
編者:佐久間文子
発行年月日:2024年3月10日
出版社:筑摩書房

収録作品
  • キャラメル工場から
  • 怒り
  • プロレタリア女優
  • 牡丹のある家
  • 橋にかかる夢(『私の東京地図』より)
  • 「女作者」
  • 虚偽
  • 薄曇りの秋の日
  • 狭い庭
  • 乾いた風
  • 色のない画
  • かげ
  • 疵あと
  • 時に佇つ その五
  • こころ

感想

★★★☆☆
図書館本

爆撃等で人を殺すだけが戦争じゃないんだな、と改めて感じました。
戦争は人間が本来持っている自然な感情を奪ってしまう。悲しくても素直に悲しめず、不安でも口にできず、みんな少しずつ心を乾かしていく。
登場人物たちのじわじわした心の乾きが伝わってきて、胸にずしんと重く残りました。

誰もが時代の空気に押し潰されそうになりながら、それでも必死に生きている。
彼らと同じ状況に置かれたら、私もきっと自分の生活を守るために卑怯なこともするし、周囲の人に意地悪したりもするだろうな…と思うと、暗い気持ちになります。
だからこそ、自分が今どんな時代に生きているのか、ときどき立ち止まって考えなければならないのだと思います。
読み終えたあと、心の中に乾いた風が吹いたような感覚が残った作品でした。



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キャラメル

なに、すぐ檜葉は大きくなりますです



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