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コリンズのプロポーズは必見――ジェイン・オースティン『自負と偏見』(小山太一訳)

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エリザベス、リジー、イライザ… これだけで十分ややこしいのに、ミス・エリザベスと呼ばれたかと思えばミス・ベネットと呼ばれたり。 呼び名の他に、親戚関係もこんがらがる。 登場人物表をつけてくれ~! 恋心か打算か。幸福な結婚とは?軽妙なストーリーに織り交ぜられた普遍の真理。 永遠の名作、待望の新訳!解説・桐野夏生。 イギリスの静かな田舎町ロングボーンの貸屋敷に、資産家ビングリーが引っ越してきた。ベネット家の長女ジェインとビングリーが惹かれ合う一方、次女エリザベスはビングリーの友人ダーシーの気位の高さに反感を抱く。気難しいダーシーは我知らず、エリザベスに惹かれつつあったのだが……。幸福な結婚に必要なのは、恋心か打算か。軽妙な物語(ストーリー)に、普遍の真理を織り交ぜる。( Amazon.com より引用) 作品情報 『自負と偏見』 著者:ジェイン・オースティン 訳者:小山太一 発行年月日:2014年7月1日 出版社:新潮社 自負と偏見 (新潮文庫) 感想 ★★★☆☆ 図書館本 この作品を初めて読んだのは確か高校生のとき。 そのときは、家柄は大したことないけど綺麗で賢い女性が、一見傲慢だけど実は心優しいイケメン紳士に見初められ玉の輿に乗る…という少女漫画的な展開にときめいたりしたけど、今読むとストーリー自体にはそれほど惹かれなかったな。 それよりも、描写が生き生きしていて、登場人物の性格とか関係性が手に取るように分かる。 その表現の上手さに魅了されました。 冒頭のベネット夫妻の会話がまず見事ですもんね。 昔は、ミセス・ベネットの俗物ぶりを軽蔑し、ミスター・ベネットのウィットに富んだセリフを面白く読んでいましたが、改めて読むとミスター・ベネットの父親としての責任感の無さに腹が立つな。 ミセス・ベネットにとっては自分と娘たちの生活がかかってるから少しでも有利な結婚をさせようと必死なのに夫はどこ吹く風…ときたら、そりゃヒステリーも起こしたくなるってもんです。 人物紹介だけでなく、夫婦間で価値観が一致していないとこんなに不幸だぞ~ということもこの会話に示されているように感じます。 この作品は脇役にもちゃんと個性があって、思いがけない動きをするから侮れません。 一番面白かったのが、ミスター・コリ...

読み直したら痛いほど共感した――太宰治「走れメロス」(『走れメロス』収録)

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結婚式の日取りも決まってないのになんで御馳走を買ってるんだよ!とか、 歩いてないで今すぐ走れよ!とか、 国語の授業で「走れメロス」を習ったときは、そんなツッコミで盛り上ったな。 親友との約束を果たすためにメロスは走る-。信頼と友情を謳い上げる表題作ほか、生きることの意味を考え続けた著者の名作短編集。太宰入門にふさわしい1冊。(解説・池内輝雄/鑑賞・井坂洋子)( Amazon.com より引用) 作品情報 『走れメロス』 著者:太宰治 発行年月日:1999年5月25日 出版社:集英社 ヤング・スタンダード 走れメロス・おしゃれ童子 (集英社文庫 た 26-2) 収録作品 燈籠 満願 富嶽百景 葉桜と魔笛 新樹の言葉 おしゃれ童子 駈込み訴え 走れメロス 清貧譚 待つ 貧の意地 カチカチ山 感想 ★★★☆☆ 購入本 「カチカチ山」が読みたくなって買った本なんですけど、表題作の「走れメロス」って改めて読むとイイですね。 教科書に載っているくらいだから名作なのは当たり前なんですが、大人になってから読むと他者から「信頼されている」ことの重みがより分かるというか。 メロスはダメ人間 そもそもメロスって、怒りに任せて王様を殺しに行こうとして捕まったうえ本人の許可も得ずにセリヌンティウスを身代わりとして差し出すという、とんでもなく短絡的で自己中な男ですよね。 「きょうはぜひとも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる」なんて言っちゃって、ええカッコしいでもある。 この作品は、そんなダメ人間・メロスの成長物語なんだということがよく分かりました。   メロスは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮らして行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものではない。ままならぬことである。メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。(P140)   妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりもないはずだ。まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要もない。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り...

強姦犯を愛した女の子?――林奕含(リン・イーハン)『房思琪(ファン・スーチー)の初恋の楽園』(泉京鹿訳)

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冒頭の比喩表現から凄い。 主人公の親友・劉怡婷(リュウ・イーティン)が、高級食材のナマコを便器の底のウンコに喩え、そのナマコを口に入れてから吐き出して「これってフェラチオみたい」と言う。 この描写だけで、意味も知らずにフェラチオという言葉を使うような年頃の少女に性行為を強要することのおぞましさが伝わってくる。 台湾で25万部突破! 台湾社会を震撼させた、実話にもとづく傑作長篇 著者は1991年生まれの女性作家。デビュー作である本書に「実話をもとにした小説である」と記したことから、著者の実体験なのではと大騒ぎとなった。刊行2か月後に著者が自殺。台湾社会を震撼させた。 文学好きな房思琪と劉怡婷は高雄の高級マンションに暮らす幼なじみ。美しい房思琪は、13歳のとき、下の階に住む憧れの五十代の国語教師に作文を見てあげると誘われ、部屋に行くと強姦される。異常な愛を強いられる関係から抜け出せなくなり、房思琪の心身はしだいに壊れていく…。房思琪が記した日記を見つけた劉怡婷は、5年に及ぶ愛と苦しみの日々の全貌を知り、ある決意をするが…。 一方、同じマンションの最上階の裕福な家庭に嫁いだ二十代の女性・伊紋の物語も同時に描かれる。伊紋は少女二人によく本を読んであげていた。だが実は夫からのDVに悩み、少女らに文学を語ることが救いとなっていたのだ。 人も羨む高級マンションの住民たちの実情を少女の純粋で繊細な感性によって捉えることで、社会全体の構造的な問題が浮かび上がってくる。過度な学歴社会、格差社会、権力主義の背後にある大人の偽善、隠蔽体質…。なぜ少女の心の声を大人が気づけなかったのか。文学の力とは何か。多くの問いを投げかける。( Amazon.com より引用) 作品情報 『房思琪(ファン・スーチー)の初恋の楽園』 著者:林奕含(リン・イーハン) 訳者:泉京鹿 発行年月日:2019年11月5日 出版社:白水社 房思琪(ファン・スーチー)の初恋の楽園 感想 ★★★★☆ 図書館本 訳者あとがきによれば、作者はこの作品を「『強姦犯を愛した女の子』の物語」だと語ったらしい。 …これは一体どういう意味だろう? 主人公・房思琪(ファン・スーチー)は自分をレイプした李国華(リー・グォホァ)を本当に愛しているわけじゃない。 愛し...

灰色の鳥――村上龍『新装版 限りなく透明に近いブルー』

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 僕の部屋は酸っぱい匂いで充ちている。テーブルの上にいつ切ったのか思い出せないパイナップルがあって、匂いはそこから出ていた。  切り口が黒ずんで完全に崩れ、皿にはドロドロした汁が溜まっている。 これだけでもう吐きそう…。 なのに読後感は意外と悪くない。 とにかく文体が素晴らしかった! 村上龍のすべてはここから始まった! 文学の歴史を変えた衝撃のデビュー作が新装版で登場!解説・綿矢りさ 米軍基地の街・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日々の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめく――。著者の原点であり、発表以来ベストセラーとして読み継がれてきた、永遠の文学の金字塔が新装版に! 〈群像新人賞、芥川賞受賞のデビュー作〉( Amazon.com より引用) 作品情報 『新装版 限りなく透明に近いブルー』 著者:村上龍 発行年月日:2009年4月15日 出版社:講談社 新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫 む 3-29) 感想 ★★★★★ 購入本 圧倒的な文体の魅力 この作品の魅力は、何といってもその文体。 解説で綿矢りささんが書いているように、主人公・リュウは本当に見てるだけの存在でした。 リュウの目を通して描かれるのはドラッグとセックスに溺れる若者たちの退廃の日常で、私たち読者からすれば過激で濃密な出来事。彼らが非行に走るきっかけを描いたりしていくらでもドラマチックにできそうなのに、作者はそうはしない。 あまりにも淡々と描かれるので、新幹線の窓からあっという間に過ぎていく風景をただ眺めているような気分でした。 でも、語り手であるリュウの感情が抑えられているからこそ、彼らの世界の異常さが際立つんですよね。 リュウをはじめとする登場人物たちが抱える虚無感にも。 登場人物の心情についてはほとんど描かれていないのに、全員心の中では深く傷ついていて、でもどうすればいいのか分からずもがいている… というのがジリジリ伝わってくるので、読んでいてどんどん気分が沈んでいきました。 綿矢りささん曰く、一般的に人は「大人になれば見たくないものをわざわざ見る必要はないから目を背ける」もの。 リュウの恋人・リリーや他の仲間たちはこのタイプの人...